主イエスは、当時のユダヤ人たちに、多くのたとえを用いて、神の国について教えられました。そのたとえで焦点を当てられる人物、動植物、物、事柄は聴衆にとって日常目にするなじみのあるものばかりでした。福音書には、主イエスが、単純なストリーを通して、神の国の真理を語られた様子、しかし、弟子たちも周囲の人々もその真意を理解できずに、たびたび当惑する様子が描かれています。
神の国とは、神が王として治めるすべての領域を指しています。私たちの思い、生き方、一つひとつの関係、家族やコミュニティー、民族や国家、人間の歴史、すべての被造物、そして神が用意されている将来。神のご支配は、創造主である神と、人間を含むすべての被造物の間に交わされる愛の関係の上になりたっています。神は、その全能の力を用いて強権的に人間を支配されようとはされません。あくまでも私たちの応答を待っておられるのです。愛なる神は、パートナーである私たち人間との自由な関係を求めておられるからです。
しかし、私たちに与えられている自由には大きな責任もとなっています。人間には神とともに生きるか、それとも神から離れて生きるかの選択肢が与えられています。私たちは神のご支配を拒むことはできますが、そこから逃れることはできません。人間にとって一番悲惨なことは、自分を造られいのちを与えてくださった創造主との関係を失うことです。人間のアイデンティティは創造主との人格的な関係の上に築かれるべきものだからです。創世記に、神がご自身のかたちに似せて最初の人間を造られたことが記されていますが、この創造の御業の中に、人間の究極的なアイデンティティが語られています。神から離れた人間は、本来の人間らしさを失ってしまうのです。主イエスは、そのような人間を「失われた人」と呼んでいます。
主イエスは、「人の子は、失われた人を捜して救うために来たのです。」（ルカ19:10）と言われました。救いとは、私たちの父となってくださる創造主との関係の中に招き入れられることです。主イエスはご自身を遣わされた神に、いつも「アバ父」（お父さん）と親しく呼びかけられました。主イエスが来られたのは、私たちをこの同じ関係の中に招き入れるためだったのです。神の国は、主イエスの呼びかけに応じた人々が、天の父との親しい交わりの中に生きるすべての場所を指しています。
神が与えてくださったこの一日を、神の愛のご支配の中で生きることができるならなんと幸いなことでしょう！
